フェラチオ(fellatio)について

 
 いくつかのアンケートによれば、男性が最も好む性行為はフェラチオであるという。
 フェラチオとは、ラテン語の吸うという意味のフェラレ(fellare)から派生した語である。厳密には、単に陰茎を吸ったり舐めたりするのは「fellatio incompleta」で、射精まで至るものは「fellatio cmpleta」と呼ばれる。つまり、精子の摂取(口中に射精された精子を飲み込む)までが正式なフェラチオといえる。
 総合して日本語で定義するならば下記のようになるであろう。

陰茎を口唇・口内壁・舌・歯牙・咽頭などで刺戟すること。また、さらに愛撫刺戟しオルガスムスにいたらせること。
 ちなみに、昭和九年に刊行された「大辭典」では、吸茎とフェラチオは次のように定義されている。

吸茎:非常に惚込んでゐる婦人が男の陰莖を口中に含んで吸う行為。=フェラチオ。
フェラチオ:變態性慾の一。(1)

 フェラチオという行為にはいくつもの多義的なイメージがある。一つは前述の大辭典の定義のような愛情に基づく行為。逆に娼婦たちが安い金額と短い時間で行う安上がりな性行為。倒錯的な行為、相手を悦ばすための奉仕行為、...。

 フェラチオの歴史は古く、古代エジプトの娼婦たちは、フェラチオのプロであることを誇示するために、口紅で口を性器のように装飾したという。またカーマ・スートラには、フェラチオの技法が詳しく説明されている。
 現代においてフェラチオという語がアメリカで一般化したのは、チャップリンの妻リタが発表した結婚生活を暴露する文書からと言われる。その後、1972年に公開された映画「ディープ・スロート」により、フェラチオは日本を含め世界的に一般化したといえる。

 一般化したフェラチオと云う語・行為に対する意識ないし感覚は下記のように分類できる。
 
一般的 ●常に晒されている顔の一部であり、食物を食べる箇所である口と常に隠されている陰部の対比による、陵辱感、穏やかな倒錯感。
受動的 ●生命を吸収される、あるいは食べられる、犯される、去勢される、という被虐的快楽。
●フェラチオをしたいという欲望の代償行為としての快楽。(男性の多くは自分の陰茎をフェラチオしたいという欲望を持っていると言われる。その代償行為として、抽送運動中に相手にキスをしたり、受動的なフェラチオをしてもらう。)
●射精という小さな死を無抵抗状態で受け入れる解放としての快楽。
能動的 ●与えるものとしての自己に対する、相手の服従や従順に対する快楽。
●排泄を口中に行うという支配感・優越意識による快楽。
●オナニーの補助具として。攻撃性が伴うとイラマチオとなる。
 

 他のさまざまな性行為同様に精神的な快楽は当然存在するが、何よりも純粋な肉体的感覚としての快楽が高いということが、男性がフェラチオを好む所以であろう。
 口には、陰門や肛門にはないもう一つの器官、舌があるからである。密着感や拘束感、抽送による陰茎刺戟はどの部位でも可能だが、口は舌によって、同時に亀頭や尿道口や陰茎に対するさらに細やかな刺戟を与えることが出来るのである。
 つまり、フェラチオの快感とは単なる吸い込みではなく、舌による摩擦が肝心なものである。テクニックとしては口技、唇技、舌技がそろっていなければ満足には至らない。

  
  
  
 

−註−
  1. 覆刻大辭典上巻 平凡社 pp.1156