エロティシズムとしばしば対比的に用いられる語としてプラトニズムがある。いうまでもなくプラトニズム(Platonism)とは、ギリシアの哲学者プラトンに由来する語である。プラトンはイデア界と現象界、理性と感性、価値と存在、精神と肉体といった二分法を採用し、前者が後者よりも優位のものとしている。
 通俗的に人間的な恋愛感情が論じられる際には、プラトニズムが精神的なものでエロティシズムが肉体的なものであると語られることが多い。しかしながら正確には、エロティシズムは精神的な欲望も肉体的な欲望も含んだ、人間の全的な精神活動である。従ってプラトニズムとはエロティシズムの一部であるともいえる。つまり、エロティシズムのもつ精神活動のうち、美を希求し絶対化する精神の運動の謂いがプラトニズムであるといえよう。

 両者の関係を図に示すと次のようになる。
 図に示されているように、プラトニズムは美に対する個々の精神内部の運動に過ぎない。それに対しエロティシズムは、絶対的な美をさらに別の絶対的なものに変換しようとする精神活動であり、個々の精神内部から突破する行為である。
 それは捉えようない美そのものを、捕獲し別の次元空間に固定化する行為であり、美そのものを解体し再構成する純粋な創造行為でもある。