●生物について
 まず、「生物」とは一体何であるのか、について考えてみたい。
 現在の通常の概念としての「生命」とは、比較的新しいものであり、17世紀のデカルトからの流れである機械論に基づくものである。それは「生命」を完全に物質現象としてとらえる考え方である。

 現在までの生物学の発展とともに、様々に「生命」は定義付けが試みられてきた。初期に於いては「生命」をその特性から、つまり成長、調節性、刺戟反応性、物質交代 、増殖等々をもつものとして。しかしそれは無生物にもみられたり、機械で模する事が可能であるなどの理由により、「生命」の定義としては不適当とされてきた。
 それは現状でもさほど変化はなく、核酸の研究が進んで、DNAについての知識が深まってきても、物質交代ではなく制御である、といった程度のものでしかない。
結局、現在に於いて科学者たちの大方の一致している意見とは、生命現象の全てを満足させる定義というものは不可能であり、生物と無生物を分ける一線というものは存在しないという事である。これが機械論−唯物論に基づく科学の結論である。
しかしながら、機械論に基づいた生命の定義をなそうとして来た人間も、あるいは定義は不可能であるとしたその決定に於いても、認識を行おうとするその態度の内に生気論を内胞してきたのである。
つまり、ある一つの定義で満足出来なかったのは、彼らが「生命」とは認められないもの、つまり、生命の定義に使用したところの条件が、結晶構造なり、機械あるいはコンピューターで満足されてしまったからである。
だがしかし、何故そのようなものが「生命」とは認められないかという理由そのものは、生気論的な考え方による判定が行われたとしか思えないのである。つまりそれは、機械論的な決定を行うための前提としての暗黙知として存在してきたと言えよう。このことは、認識しておくべき事である。生命というものは、非物質的なものが含まれたものでなければ定義出来ないということを暗示しているのである。
 
  
●地球外知的生物について
 「地球外知的生物(1)」というものについて、想定し得るものをいくつか考えてみたい。単純に考えるならば、人間型(ヒューマノイド)とそれ以外のものに大別出来るであろう。
地球的な生命体、つまり現在われわれの知っているかたちでの人間型の生命体。このようなETならば問題はさほどないように思える。地球上で日常的に行われている戦争、あるいは平和かのいずれかの付き合い方しかないはずである。
 つまりそれは、現実には出会った事はなくても、長らくSF映画や小説で馴染んできたものに過ぎないからである。童話的なSFに見られるように、形態的な差異や、思考方法の違いなどの問題は、現在の地球上の国家間の問題と同程度のものであろう。
 では、地球上の生物とは異なったETを想定するとしたらどのようなものになるだろうか。
 一つには、現在地球上でわれわれが認識している生物から類推し得るもの。たとえば、生まれてから死ぬまでの一生を空中で過ごす生物(2)など。これは水中、地上で一生を送る生物が存在する事から容易に想像出来るものである。
あるいは、生活環境の面ではなく、生命体を構成する物質の面から考えれば、純粋に気体だけからなる生物、あるいは液体のみの生物というものも考えられるであろう。また、空気や水以外の物質により、生命活動を行う生物、というものが存在しても何の不思議もない。
 以上のような生物ならば、現在の唯物論に基づく科学でも想像できるし、認識できるであろう。但し、時間も地球的であるという条件は必要であろう。一回の代謝なり運動が数億年単位で行われるような生物の場合、認識は不可能であろうから。
 生物の定義と同様、時間に付いてもわれわれは全く無知である、あるいは知り得ない状況にある。たとえば意識の時間である。果たして、意識に時間というものはあるのか。また、時間があるならば、当然ETたちは地球とは異なる意識の時間をもつ可能性がある。現在の科学に於ける自然科学的認識とは、デユボワ・レーモン(3)が言うように、「物質界に於ける諸変化を、時間には依存しない原子の中心力によって生ずる運動にまで還元すること」(4)なのである。つまり極端な言い方をすれば、ある特定の時に、ある特定の場所で一回だけ起こる現象というようなものは、科学においては決して認識することの出来ないものなのである。
 従って、時間を含めた存在状態というものを考慮に入れるならば、物質に付いてすら、認識は全く異なるものになり、ETとはそのような形でのみ認識し得るものなのかも知れないのである。

  
  1. 地球外生物(Extraterrestrials) のこと。ただし、本論においては地球外知的生物(Extraterrestrial Intelligence) と同義に使用する。
  2. UFO現象の解釈の一つとして、トレヴァー・ジェイムズらの提唱するスペース・クリッター説など、地球に於ける未発見の空中生物であるという説も存在する。
  3. Du Boir-Reymond 1818-1896 ドイツの生理学者。ベルリン大学、ボンの大学で自然科学を学ぶ。神経及び筋肉内部で起こる電気現象を研究した。
  4. 「自然認識の限界に付いて・宇宙の七つの謎」 pp.27 坂田徳男訳