1967年にアメリカマサチューセッツ州サウスアシュバーンハムで発生したベティ・アンドレアソン(1937/1/7-)のアブダクション事例の概略を以下に記す。

 
 ベティは1967年1月25日午後6時半頃突然出現したエイリアン達によって自宅から誘拐された。十年後に逆行催眠によって得られた情報では、彼女はUFO内に連れ込まれて生体検査をされ、さらに外宇宙と思われる場所に連れて行かれた後、メッセージを伝達され青い本を受け取ったと云う。その概要は次のようなものであった。

 彼女が夕食の片付けをしようとした時、家の外でオレンジ色の光が点滅し同時に部屋の電気が消えた。子供たちは騒ぎ出し、父親は様子を調べるために台所へと向かった。この時点では七人の家族全員がこの光を認識していた。しかしその後エイリアンが家の中に透過するようにして入り込んで来た時には、ベティ以外の家族は時間が止まったように静止する。

 テレパシーでクアズガと名乗ったエイリアンによって、ベティは浮遊し吸い込まれるようにUFOに連れ込まれる。その中ではベティに対する生体検査が行われた。鼻の穴から頭部にまで針が挿入され、弾丸のような物質を取り出される。さらに臍にも針を挿入され、エイリアンたちは彼女が子宮摘出手術をしている事に驚く。

 検査の後、ベティは椅子に座らされ液体に浸された状態で別の世界へと移動させられる。液体は重力の加速ショックを緩和する働きをしているらしい。しばらくして椅子から降ろされると、ベティはエイリアンに連れられて長いトンネルを通過する。歩いてはいない。浮遊しながら進んでいた。すると周りは一面赤色の世界となり、這い蹲ったキツネザルに似た奇怪な生物が密生しているのを目撃する。そこを過ぎると緑色の世界が現われ、植物や都市、そしてピラミッドが存在していた。更に進んで行くと、今度は巨大な鷲のような鳥と遭遇する。五メートルほどの大きさで、背後から光が放射されている。近付くと今までに経験した事の無いような熱さと痛みが身体中に浸透した。鳥が見えなくなると同時に小さな火が現われ、やがて燃え尽きた灰の中からミミズのような虫が出現する。

 同じ道を戻って再びUFO内部へとベティは誘導される。UFOがベティの家に到着すると、クアズガは人類に対するメッセージをテレパシーで伝えた。そして十日ほどで消えてしまう事になる青い本を彼女に渡した。他のエイリアンは小さな白く光る球体を手に乗せ、ベティの家族をそれぞれの部屋に移動させた。

  
自宅 オレンジ光の点滅    家族・子供達も目撃
      時間が停止したように静止してしまう
四人の実在の出現
ベティを連れてUFOに搭乗
地球外
   1:白い服に着替え
   2:鼻の穴に針・・・光を測るため、弾丸を取り出す
   3:ヘソに針・・・臓器の確認
生体検査
外宇宙への旅    1:黒いトンネル

   2:赤の世界・・・奇怪な宇宙生物

   3:緑の世界・・・都市・ピラミッド、クリスタルの都市

   4:巨大な鳥・・・褐色・熱い

   5:小さな火・・・灰の中から虫

自宅
メッセージ
帰 宅
青い本を貰う
家族を部屋に誘導
白く光る玉

 
 

外的現実は何だったのか?

 家族が目撃した現象はオレンジ色の光までである。但し、娘のベッキーだけは母親であるベティの前にエイリアンが出現した時点まで目撃している。だがUFOに乗り込んでからの出来事は全てベティ単独の経験である。

 だがアンドレアソン夫人個人の体験した現象も全て事実であると云う前提から考えなければならないであろう。勿論精神的な幻覚であると云う反論も成立しない事はないが、彼女が嘘を言っていないと云う事を認識するならば、幻覚ではなく少なくとも彼女の内的現実である。何故なら幻覚を内的現実と認識してしまう場合は現実検討能力に欠けると云う事になるが、彼女の場合には当てはまらないからである。従って問題となるのは、彼女の捉えた内的現実がそのままの形での外的現実であったのかと云う点である。

 カリフォルニア州立大学教授のアルビン・ローソンなどは、オットー・ランクの提起した出生外傷の理論を援用して、この事例を出産外傷により形成された現実であると解釈しているが、アブダクション事例の説明としては全く的外れである。つまり、人間が催眠やLSDによって出生外傷に基づくと思える経験をすると云う事は当然有り得ることであり、それ自体は単なる心理学的事実でしかない。しかしたとえアブダクションケースで報告される現象がその様なものであったとしても、問題は催眠下でもLSD使用下でもない人間に対して、それを引き起こした外的現実とは一体何であったのかと云う事なのである。

 従って考えられる可能性は、彼女の内的現実がそのままの形で外的現実であったか、あるいはその様な仮想現実を精神に植え付けられたのかの二つである。どちらであるかと云う判断は現時点では不可能であるが、いずれにしても人間ではない何らかの生命体(エイリアン )の意志的行動 によって与えられた現実であると考えるべきであろう。勿論人間による悪戯・犯罪あるいは意図的な情報操作として、選ばれた人間にそういった内的現実体験を行っているとも考えられる。しかし、信憑性の高いとされているアブダクション事例では、第三者の目撃や物理的痕跡なども含めて判断されているのでその様な可能性は除外出来るであろう。

 また心理学者ユングが提起したような、より広い意味での無意識を含めた人間の意識の産物である可能性も考えられるが、それも未知であると云う意味に於いてはエイリアンと仮定しても支障はない筈である。つまり心の内側か外側かと云うことが問題なのではなく、現実に人間に影響力を持つエイリアンが存在すると云うことが問題なのである。


−註−
  1. internal reality 精神分析学用語としては、人間外部の空間を占有してると云う意味での客観的な現実である「外的現実 (external reality)」に対応する、人間内部の思考や感情・空想などを指す。本論考では、本人自体は外的現実と認識しているが、アブダクションケースのように他者から見てその証明が困難な現実と云う意味も付加して用いる。
  2. birth trauma 出産が人間の外傷的経験になると云う観念から、人間の不安は出産という外傷的経験の反復であるとする理論。