バフォメットについて

 
 以下に示した図版は様々なオカルト関連の書籍の中で繰り返し引用されているものである。中には左右を逆に複写した笑止なものまで存在するが、その出典を明らかにすると、これはエリファス・レヴィが『高等魔術の教理と祭儀』の中で、「サバトの牡山羊−バフォメとメンデス」と題して紹介した図である。
 
 エリファス・レヴィの説明では、この図には次のような象徴的意味が込められている。
  • 角の間の松明・・・・「三つ組み」の均衡を持った知性の象徴。
  • 牡山羊の頭・・・・犬と牡牛と驢馬を合成した特徴をもつ。肉体的罪の責任は物質であるという意味をもつ。
  • 人間と同じ形の手・・・・勤労の神聖性を示す。上と下へ向けて印を結んでいる。その指し示す先には善と悪を象徴する白と黒の三日月がある。
  • 躯の下部とヘルメスの杖・・・・万物の創造の秘密の象徴。
  • 人間の女の乳房・・・・母性の象徴的記号。
  • 額の五芒星・・・・一個の頂点が上を向いた正位の五芒星は、小宇宙であり人間の知性の象徴である。それが松明の下に置かれていることにより神の啓示の意味を持つ。
  
 本来、バフォメットとは聖堂騎士団が崇拝した偶像のことといわれる。バフォメット(Baphomet)という名称は、「人間の全宇宙的平和の寺院の父」という意味の、"Templi omnium homonium pacis abhas"の省略語である "Tem. ohp. Ab"を逆に読んだものであるという。またそれは同時に、明らかにマホメット(Mahomet)の転訛したものでもあると考えられている。
 だが、1307年に聖堂騎士団が異端で告発された際に、バフォメットを崇拝していると告白したものはごく小数であり、その姿についての証言も様々に異なるものであった。バフォメットという名称についても、モンタギュー・サマーズによれば、「知識の吸収」を意味するギリシア語 baphe metis に由来するという説もある。従って単純に聖堂騎士団に由来する表象であるという訳ではない。

 いずれにしてもバフォメットは中世において、悪魔の同義語、あるいは悪魔の一名称として使用されていた。そのためサバトの首領としての魔女の神とみなされるようになる。
 
 そして近代に至り、エリファス・レヴィが、古代エジプトのメンデスで信仰されていた牡山羊と悪魔のイメージを結合させてこの図を描いたことにより、明確な表象としてのバフォメットが確立されたといって良いであろう。
 
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著者:フレッド・ゲティングズ
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